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最高裁判所第二小法廷 昭和40年(あ)1389号 判決

主文

原判決および第一審判決を破棄する。

本件を長崎地方裁判所に差し戻す。

理由

弁護人小野原肇の上告趣意は、憲法三一条違反をいう点もあるが、実質はすべて単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。

しかしながら、職権により調査するに、外国為替及び外国貿易管理法(以下法という)四五条は、「政令で定める場合を除いては、何人も、支払手段、貴金属、証券又は債権を化体する書類を輸出又は輸入してはならない。」と規定し、右禁止の除外例として、外国為替管理令(以下令という)一九条が設けられ、その第一、二項に該当する場合には、支払手段、貴金属、証券又は債権を化体する書類(以下支払手段等という)を輸出入することができるよう規定されているのである。更に、法七〇条は、その一八号において「四五条の規定に違反した者」に対し、三年以下の懲役又は三〇万円以下の罰金もしくはこれらの併科等の刑罰を科することができるよう規定しているのであるが、右罰則は、令一九条一、二項の各場合に該当しないのに拘らず、支払手段等を輸出入した者に対してのみ適用されるべきであって、右各場合には該当するが、その輸出入にあたって、令二〇条に定める税関の確認を受けなかったというだけの者に対しても適用される趣旨と解すべきではない。なんとなれば、令二〇条の規定の文言は、「税関の確認を受けなければならない」というのであって、これは、支払手段等を輸出入しようとする者に対し、一定の手続を履践すべき旨を命じたに止まり、法の定める輸出入禁止の除外例とされる実質的要件を定めたものではなく、従って、右手続を履践したということが、法四五条の「政令で定める場合」に含まれるとは解し難いからである。また、これが法四五条の政令で定める場合に含まれると解すると、正規の大蔵大臣の輸出入の許可を受けた者でも、たまたま税関の確認手続を経なかったという単なる手続規定違反だけで、実質犯と同じ三年以下の懲役等の刑罰に処せられることになり、法第九章の罰則において、その七一条、七二条に、これより軽い刑が定められていることと対比しても、いささか刑の均衡を失すると考えられるからである。

そうすると、本件において金指輪等は、身辺装飾品でその私用に供されるものであるから、令一九条二項二号の除外例にあたると認定しながら、被告人が令二〇条の手続をとらなかったというだけで、法四五条、七〇条一八号にあたるとし、出入国管理令違反と刑法四五条前段の併合罪となるとして、被告人を懲役一〇月、三年間執行猶予の刑に処し、更に被告人から指輪等を没収している第一審判決およびこれを是認した原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める(なお、第一審判決がその輸入行為を有罪として、被告人から没収しているヒスイ入指輪二個〔長崎地方裁判所厳原支部昭和三九年押第一三号の証一号〕は、白金台のヒスイ指輪であって、法六条一項一〇号にいう「貴金属」にあたらないから、一審判決およびこれを是認した原判決には、この点においても法令適用のあやまりがあると認められる)。

よって、刑訴法四一一条一号、四一三条本文により、原判決および第一審判決を破棄し、本件を第一審裁判所である長崎地方裁判所に差戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

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